内面と向き合う旅—クインダ・ヴァーヒュール、ツアー・ディバイドを駆け抜けて

IMAGES:Eddy Clark and Sean Greene

TEXT:Quinda with Pedaled

ツアー・ディバイドのライダーたちには、走っている間に考える時間がたっぷりある。

それでも、この壮大な挑戦を本当に消化するには、長い時間がかかる。

そこで私たちは、レースを終えて数週間が経ち、ようやく気持ちの整理がついてきたペダレッド・アスリートの クインダ・ヴァーヒュール(Quinda Verheul) に話を聞いた。

彼女が体験したハイライト、苦しみ、そして長く続く「そのあいだの日々」について語ってくれた。

― ツアー・ディバイドに向けて、トレーニングや準備、計画を重ねてきたと思います。実際に走ってみて、想像と現実の違いはありましたか?

いつものレースよりもずっとしっかり準備しました。
計画的なトレーニング、ギアの選定、そして大まかな日ごとのプランまで。
「まあまあ速い人」ではなく、「自転車に本気で向き合える自分」を試してみたかった。
「自転車に乗るアーティスト」以上の存在になれるかを知りたかったんです。
だから、今回は野心を持って臨みました。

意外だったのは、もっと景色に圧倒されると思っていたのに、実際は単調に感じる部分が多かったこと。
コースが求める精神的・感情的な負荷が、それほどまでに強かったんです。

― 走行中のハイライトと、つらかった瞬間を教えてください。

人々の優しさは、本当に心に残りました。
モーテルに食べ物を置いてもらったり、夜遅くの到着を快く受け入れてくれたり。
ドットウォッチャーたちは、冷えた水やレモネード、アイスクリーム、心のこもったサンドイッチまで差し入れてくれました。
あとは、見たことのない動物たちとの出会いも特別でした。

つらかったのは、感情の重さ。思っていた以上に心が揺さぶられ、周囲の美しさがかすんで見えることもありました。

― 地理的・文化的に印象に残ったことは?

グレートベイスンの終盤で見た、色鮮やかな砂岩の丘は圧巻でした。
夕暮れ時にコロラドへ入ったときの光景も忘れられません。
暖かい色に染まる空、流れる川、映画のような静けさ。

文化的には、南へ行くほどメキシコ料理がどんどん美味しくなりました。
手作りのブリトーを見つけるたびに買い溜めして、1日の小さなご褒美にしていました。

― 感情の揺れや疲労、退屈さが一番の敵になると聞きます。それをどう乗り越えましたか?

感情のすべてを味わったと言っていいほどでした。
でも今回は、それが予想以上に深く、私を飲み込んだ。
本当に“内面のレース”になりました。

普段の対処法が通じない場面も多かった。
だから、眠ければ仮眠をとり、張り詰めたら泣く。
どんな形でも前に進むことを優先しました。
スピードは落ちたけれど、最終日には心が軽くなっていて、ゴールを追うのが純粋に楽しみになっていました。

― 長距離レース中に生理が重なることもあります。今回はどうでしたか?

来ることは分かっていたし、初めてではありません。
でも今回は体が重く、眠くて、いつものように動けませんでした。
「終わったあとの元気」が来ることを期待していたけれど、今回は違いましたね。
清潔を保てたのはよかったけれど、それでも確実に1日のエネルギーを奪いました。

― 旅の途中で印象に残った人との出会いは?

レース前から素敵な人たちと出会いました。
ロビンと過ごした時間、料理や会話で心が落ち着きました。
ラエルからのハグ、アナと一緒に走り出した朝、アレクサンドラとの美しいひととき。

セブは娘さんたちが作った小さな絵本を見せてくれて、とても温かい気持ちになりました。
ショーンというカナダの元XCレーサーは穏やかで、ヘレナまで一緒に走りました。
グレッグとは登りで語り合い、短い1時間のライドでも深い印象が残りました。
ダグとは何度も偶然再会して、不思議な縁を感じました。
そしてクリスタに出会った瞬間——立ち止まるか迷ったけれど、本当に止まってよかった。

― 当初はトリプルクラウン(Tour Divide、Colorado Trail、Arizona Trail)を目指していましたが、アリゾナでの山火事により計画変更になりましたね。

アメリカでのレースは費用がかかります。
コロラドに移動する資金を1か月でどうにかするのは、現実的にはギリギリでした。
せっかく行くならアリゾナ・トレイルも走りたいと思っていたのですが、Dragon Fire による山火事でコースの一部が閉鎖されていて……。

それを「早く再開してほしい」と願うのは違うと感じました。
土地には回復の時間が必要ですし、閉鎖されている3%の区間には“ゴール地点”が含まれている。
それは大切な部分です。
だから、今回は焦らず、ヨーロッパに戻って意味のあることに時間を使うことにしました。

― 帰国してからはどのように過ごしていますか? 恋しかったものは?

野菜や果物をたっぷり使った食事と、自分のベッド!
これが一番恋しかったです。
帰ってすぐにトレーニングを頑張りすぎて膝を痛めてしまいましたが、今はゆっくり回復中。
イタリアの自分の「裏庭」を探検するのが楽しみです。
ドロミテ山脈には、まだ見ぬ景色がたくさんあります。

25FW COLLECTIONはこちら

取扱ショップ一覧

ショップ名 住所 TEL MAP
COG TOKYO 東京都港区芝2丁目1-23ニューカナール升田ビル1F 03-6809-5334    MAP
cycleZ 岡山県岡山市北区島田本町1-1-47 086-252-7744    MAP
Grumpy 広島県広島市西区庚午中1-18-32ドルミ庚午101 082-208-2535    MAP