
TEXT : Hideto Suzuki
PEdALEDはどのように生まれ、なぜ今の形になったのか。
本記事では、創業者の鈴木秀人氏が、ブランドの起源、哲学、素材選びや製品設計に込めた想いをひも解きます。
ドイツ南部、ボーデン湖を望む美しい街フリードリヒスハーフェン。
スイスのチューリッヒからも近いその場所で、世界最大級の自転車展示会「ユーロバイク」は開催されます。
飛行機を乗り継ぎようやく到着し、展示スタンドの準備に向かった私は、そこで圧倒的な現実を目の当たりにしました。
イベント会場は、日本のサイクルモードの10〜15倍。
巨大なホールをいくつも歩き、ようやく辿りついたJAPANエリア。
PEdALEDのスタンドは、米粒のように小さく見えました。
「ここで本当に誰かが足を止めてくれるのだろうか?」
不安はありましたが、覚悟を決めるしかありませんでした。
【理解されないスタート】

初日、会場は人で溢れていました。
ヨーロッパに根付く自転車文化の厚みを、肌で感じます。
PEdALEDのブースに並んでいたのは、日本製デニム、ヘンプTシャツ、古着をリメイクしたサイクルウェア。
ジャージやビブショーツはありません。
来場者からは、
「これは普通の服だろ」
「日本のデニム屋か?」
という声が多く聞こえました。
私は英語も流暢ではない。
それでも、身振り手振りと知っている英単語を総動員し、必死にブランドの想いを伝え続けました。
どれだけ話したか覚えていません。
がむしゃらなまま、初日が終わっていきました。

奇跡の出会い
翌日も同じようにがむしゃらに接客を続けていた午後。
ひとりの女性がスタンド前で立ち止まり、興味を示してくれました。
丁寧に説明すると、「後で名刺を持ってくるわ」と言って去っていきました。
正直、もう戻らないだろうと思っていました。
しかし、数時間後。
彼女は本当に戻ってきて、名刺を手渡してくれたのです。
そこに書かれていた肩書きは、セラロイヤル社 CEO。
fi’zi:k / BROOKS / Crankbrothers… 誰もが知るブランドを手がける巨大企業のトップ。
自分の小さなスタンドが、あの企業のCEOの目に留まったという事実に、膝が抜けそうになりました。
翌日も再訪してくれ、ブランドの思想や今後の展望についてじっくり話をする機会を得ました。
これらの会話は、自転車産業振興協会の方が通訳をしてくれ、そのサポートにも深く感謝しています。
イタリアへ。PEdALEDチームの誕生

イタリア北部にあるセラロイヤル社は、FIZIK、BROOKS、Crankbrothersなど、世界的ブランドを擁するグループ企業です。
その規模と仕事環境に圧倒される中で、PEdALEDがセラロイヤルグループの一員となることが正式に決定しました。
ミラノ、バーミンガムのBROOKS England工場へと予定は次々に動き、2か月後、日本で正式に調印。
PEdALEDの新たな歴史が始まりました。
ヨーロッパ市場がビジネスの中心となり、私の生活は一変しました。
2か月に一度、2〜3週間イタリアに滞在し、年間の3分の1を現地で過ごす生活です。
社内にはPEdALEDセクションが設けられ、イタリア人と日本人による小さなチームがスタートしました。
そこには、上下関係ではなく、家族のように本音をぶつけ合う文化がありました。
意見を隠さず、納得するまで話す。
この環境は、私のデザインと創造に大きな影響を与えました。
ダリオ・ビゴレッティとの出会い

イタリアでの関係構築に欠かせないのは、オープンマインドで自分をさらけ出すことです。
格好つけたり、知ったかぶりをすれば終わりです。
その象徴的な出来事が、フレームビルダーの巨匠
ダリオ・ビゴレッティ との出会いでした。
2012年のユーロバイクで、イタリアチームの一人と話し込んでいた彼に誘われ、3人で地べたに座って話をしました。
通りすがる人々が皆「チャオ!」と声をかけていきます。
「誰だ、この人?」
正直、私は彼のことを知りませんでした。
「俺のこと知ってるか?」と聞かれ、「ごめん、知らない」と正直に答えると、彼は笑って私を受け入れてくれました。
その後は「ヒデ!」と呼ばれ、友人として接してくれるようになったのです。
生活としての自転車

週末の朝、イタリアの街には年齢を問わず多くのライダーがいます。
ロード、MTB、ビンテージバイク。
ライド途中にカフェでコーヒーとブリオッシュを楽しみ、走り終えた仲間とビールやスプリッツァを飲みながら語り合う。
それは単なる趣味ではなく、自転車が生活の一部として存在している という感覚でした。

日本とイタリア、ものづくりの魂

PEdALEDは創業当初からメイド・イン・ジャパンにこだわってきました。
日本の繊維技術と縫製工場を守りたいという思いからです。
同じ課題はイタリアにもあります。
だからこそ、PEdALEDはメイド・イン・イタリーにも強くこだわっています。
時間をかけて培われた職人の技は、記録では再現できません。
同じ製品に見えても、着て走ったときの感触はまったく違う。
PEdALEDのウェアには、日本とイタリア、二つの国の魂が込められています。
(続く)



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