PEdALED ヒストリー:東京から生まれ、イタリアへと育ったブランド

TEXT : Hideto Suzuki

PEdALEDはどのように生まれ、なぜ今の形になったのか。

本記事では、創業者の鈴木秀人氏が、ブランドの起源、哲学、素材選びや製品設計に込めた想いをひも解きます。


2007年、渋谷の小さなショップから生まれたPEdALED。

満員電車の中で抱いた違和感、ロードバイクと再会したときのあの衝撃。

そして、“日常と冒険をつなぐサイクルウェアをつくりたい”という想い。

天然素材と古着を用いながら、自転車の動きに寄り添う服を生み出す挑戦から、すべては始まった。

日本のマーケットの波に翻弄されながらも、独自の思想とクラフトマンシップは揺らがず、「世界で通用するか確かめたい」という思いに導かれて、創業者はブランドを海外へ連れ出した。

パリの展示会、台湾のショー、そしてユーロバイク。

そこでの出会いが、PEdALEDの未来を大きく変えることになる。


「誕生と挑戦の物語」

2006年頃、東京の満員電車で通勤していた私は、ある日ふと気づいてしまった。

――この移動は、自分の身体が何も感じていない。

ただ揺られ、ただ運ばれ、ただ時間だけが過ぎていく。

都会で働くうちに、外界とのつながりを失っていた。

頭の片隅で、ふと田舎で過ごした少年時代の記憶がよみがえった。

サッカーに明け暮れ、風を切って自転車で走り回っていたあの頃。

風の温度、季節の匂い、汗の味。

身体全体で“生きている”と実感できた日々、そんな感覚を取り戻したくて、ある日ふらりと立ち寄った自転車店でロードバイクに試乗した。

わずか数百メートル。それだけで、世界が一気に鮮やかに戻ってきた。

ペダルを踏む足裏の感触。
頬をかすめる風。
身体と地面がつながるようなあの感覚。

――「これだ。」

そう直感した。

その瞬間から、自転車中心の生活が始まった。


サイクルウェアが“自分の生活”に馴染まなかった

しかし、すぐに壁にぶつかった。

どれだけ走ることに魅了されても、サイクルウェアが“まったく自分に合わなかった”のだ。

派手でレーシー。
ロゴだらけ。
街に着ていく気になれない。

自転車は生活に寄り添う素晴らしい道具なのに、ウエアは完全に“競技の服”だった。

「生活とスポーツの中間にあるサイクルウェアは存在しないのか?」

そう思ったとき、答えは自然に出た。

――ならば、自分で作ろう。


ブランド名「PEdALED」に込めた世界観

ロードバイクと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、“スピード・軽さ・競技” といった言葉だろう。

でも自分が作りたいのは、もっと生活に近く、もっと人間的なサイクリングウエアだった。

そこで考え抜いて作ったのが「PEdALED」という名前。

Pedal(ペダル)
+ Earth(地球)
+ Diving(潜水)

この3つを組み合わせた造語だ。

“ペダルを踏んで、地球という大きな世界をゆっくり潜りながら旅するように走る”そんなサイクリングの楽しみ方を表現したかった。

決してスポーツサイクルを否定しているわけではない。

ただ、もっと自由で、もっと自然と調和した乗り方の提案をしたかった。


天然素材と古着で作られたサイクリングウエア

PEdALEDの最初のコンセプトは明確だった。

――「天然素材と古着を使ったサイクリングウエア」。

将来の地球環境を思うと、化学繊維を使うことにどうしても抵抗があった。

自然の中でトラブルに遭って命を落としても、何百年も残るような素材の服を着ていたくない。

小さなブランドでもできる限り地球に優しいものづくりをしたい。

その想いが、天然素材への強いこだわりにつながった。


伸びない生地で “乗れる服” を作る苦労

もちろん簡単ではなかった。

天然繊維は伸縮しない。

そこで、パタンナーと共に型紙を工夫し、立体的で運動域を妨げない服をつくり上げなければならなかった。

肩の可動域、膝の動き、前傾姿勢でのフィット感。

一点ずつ試し、修正し、また試す。

サンプリングと店舗改装を含め、気づけば一年近くが過ぎていた。

中心となったアイテムは:

  • 日本が誇るデニムを使ったパンツ
  • 綿より速乾性に優れたヘンプTシャツ
  • ミリタリーやUSAカレッジ古着をリメイクした一点物

これらは当時、どこにもなかった“生活者のためのサイクリングウエア”だった。


2007年、PEdALEDデビュー

ようやく準備が整い、2007年にPEdALEDはデビューした。

ちょうどその頃、街中ではピストバイクブームが巻き起こっていた。

ファッション誌でも自転車特集が組まれ、競輪選手が売っていたピストフレームがフリーマーケットで即完売するほどの熱気。

しかし、PEdALEDは苦戦した。

サイクルウェアでもファッションでもない“中間の服”。マーケットにとっては未知の領域だった。

それでも、ファッションチャネルが“自転車”をブームとして扱い始めたことで、PEdALEDの名を知る人が少しずつ増えていった。

サイクルモードのアパレルエリアでも大きな反響があり、ブランドはようやく広く認知され始めた。

だが、私は分かっていた。
――日本のブームは必ず収束する。

ここからが、本当の勝負だと思った。


海外へ。ユーロバイクを目指して

「自分の考えは世界で通用するのか?」
その答えを得るために、ヨーロッパへの挑戦を決意した。

パリの展示会、台湾のショーにも出展したが決定的な成果は得られなかった。

最終的に目指したのは、バイク業界最高峰の展示会「ユーロバイク」。

しかし、出展は簡単ではなかった。

名古屋高島屋での期間限定ショップで出会った方の縁をきっかけに、Japanエリア出展枠の審査に応募。

奇跡的に通過し、1つの小さなブースを得ることができた。

大きなドラムバッグにサンプルを詰め、最低限の服とパンフレットを持って、僕はユーロバイクへ向かった。

そこで、すべてを変える“新たな出会い”が待っていた。



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