What’s Q-RINGS
オーバルチェーンリングって何?
ROTOR Q-RINGS 完全解説

中田 尚志 (Peaks Coaching Group-Japan)

オーバルリングについて

多くのオーバル・チェーンリング開発の起源は「自動変速」です。

一番力がかかる角度でギアが重くなり、力を掛けにくい角度で軽いギアに瞬時に変速してくれれば、自転車はグッと進むようになるはずです。
ROTORはまずはじめに、クランク角度を可変さえることで、それを実現させようといろいろなプロダクツを開発をしてきました。
下記の写真は、ROTORが25年の歳月をかけて、Q-RINGSを開発するまでに研究を行ってきたプロトタイプや製品群です。

そして、20年の歳月をかけてオーバルリングへと辿り着きました。
Q-RINGSは、ROTORがぺダリング効率をアップさせるために、あらゆるシステムを研究した上で辿り着いたプロダクツです。

では、ROTORが考えるオーバルリングはどのようなものでしょうか。

下記の図はペダルにかかるトルクとクランクの動く速さの関係を表わしたものです。
クランクの動く速さ(角速度・Angular velocity)は、90°あたり(時計で言う3時)でピークに到達します。
トルク(Torque)は105°あたりでピークに到達します。これに伴いパワーもこの角度でピークを迎えます。

クランクの動く速さとトルクの変動に合わせてギア半径を変化させる事で、パワーを最大化しペダリングの効率を上げようとするのがオーバルチェーンリングです。

Q-RINGSのデザイン

ペダリング中にピークパワーを発揮するのは3時あたりと書きましたが、詳しくは73°~107°の角度です。
ケイデンス、スピード、身長、オーバル、ラウンド、男女、初心者、エリートなどあらゆる条件に関わらず
ピークパワーの発揮は、ほぼこの角度に収まります。

パワーを最大化し、ペダリングの効率を最適化しようとするオーバル・チェーンリングのデザインはどうなるのでしょうか。
オーバルの形状を決める条件は下記の3つです。

 


 

オーバルの形状を決定する条件

  • どのクランク角度に最大歯数のポイントを持ってくるか?
  • 楕円率をどの程度にするか?
  • 楕円のカーブをどのように変化させるか?各メーカーはこれらのデザインをどう組み合わせるかに工夫をこらしています。

 

オーバル・チェーンリングの形状を決める3つの条件

オーバル・チェーンリングでパワーを最大化する要素

パワーはトルク × ケイデンス(クランクの回転の速さ)で決まります。
もう少し専門的にいうとクランクの回転の速さは角速度(Angular velocity)で表されます。

パワー=トルク×角速度

パワーを増やすためには…
1.トルクを増やす=よりペダルに力をかける
2.角速度を増やす=よりペダルを速く回す

ペダリング時のパワーを最大化するには73°~107°に来る時のパワーを増やすのが効率的ですから、
この位相に来た時にトルクと角速度が最大化されるようにオーバル・チェーンリングでは半径を変えています。

Q-RINGS(オーバル・チェーンリング)でペダリングを効率化する要素

自転車の走行はパワーを増やす一方で効率を上げることも重要です。疲労する事なくパワーを維持出来る方が速いからです。
筋肉がパワーを最大限発揮するには最適な長さがあります。
例えばスクワットをするとき最下点では、筋力を発揮する事はできません。
またバーベルを上げ切った状態でも筋力は発揮できなくなります。ちょうどその中間ぐらいでスピードとパワーは最大になります。

ペダリングにも同じことが言えます。ペダルが最も上にある状態、下にある状態では筋力は上手く発揮できません。
これらをデッドスポットと言います。

デッドスポットに来た時に力を込めるのは効率が悪いために力を抜いてやり過ごすのがペダリングの基本です。
オーバル・チェーンリングではここの半径を小さくすることで、力が抜けやすくしてあります。

こうすることで筋肉を自然のモーションに近い形で動くようにすることが出来る為に”エコ運転”出来ると言うのがQ-RINGSの設計思想です。

 


 

オーバル・チェーンリングの有効性を示す実験結果

1)パワーの向上

オーバル・チェーンリングとラウンド・チェーンリングを比較する為にカリフォルニア・ポリテクニック州立大学のクリスティ・オハラらが行った実験では、最大パワーに変化は見られませんでしたが、平均パワー(+25W )、平均スピード(+0.7kph)はオーバル・チェーンリングで明らかな向上が見られました。

2)エネルギー効率向上

同じくクリスティ・オハラらが行った酸素摂取量を比較した実験では、オーバル・チェーリングを使った場合、明らかに酸素摂取量が減りました。 また同じ負荷で心拍数を計測したところオーバル・チェーンリングは心拍数が減った事からペダリング時の効率が上がっているのが分かります。

C. O’Hara, R. Clark, T. Hagobian, and K. McGaughey. “Effects of Chainring Type (Circular vs. Rotor Q-Ring) on 1km Time Trial Performance Over Six Weeks in Competitive Cyclists and Triathletes” International Journal of Sports Science and Engineering 6.1 (2012): 25-40.

カリフォルニア・ポリテクニック州立大学Ph.D(博士号) クリスティ・オハラ

大学院の卒業論文で楕円ギヤについて研究し、博士号を取得。自身も4年間ローターのスタッフとして働いた経歴をもつ。
現在は同大学でバイオメカニクスの講師を務める傍ら研究活動も行う。自身もロードレースに参加するサイクリスト。


レースの現場では

マリアンヌ・ヴォス

ロード、トラック、シクロクロスで12回の世界チャンピオンに輝くマリアンヌ・ヴォスは16歳の時からオーバル・チェーンリングのユーザー。
彼女のチームはシマノがスポンサーしているが、チェーンリングだけは何を使っても良いという契約を結び、ローターを使い続けている。

「私自身が最もメリットを感じているのは加速。シクロクロスでコーナーを抜けた後の加速、ロードの登りでのスイッチバックの加速でQ-ringsは私を助けてくれていると感じています。もしあなたがQ-ringsを使うとしたら、ロードはOCP3、TTマシンは4にセットしてしばらく走ってみてください。その後、ご自身にとってメリットがあるかないかを判断すれば良いと思います。私の成功にローターは力をくれていると感じています。」

その他サポート選手外でもQ-RINGSを使用する選手が多数います。

オーバルチェーンリングを導入するなら

様々な形で有効性が実証されているオーバル・チェーンリング。
カリフォルニア・ポリテクニック州立大学のクリスティ・オハラは、「全てのライダーにとってオーバル・チェーンリングは有効。全てのライダーが試してみるべき」と話します。

しかし、それにも関わらずまだまだオーバルの普及率は低いのが現状です。
「もしオーバル・チェーンリングが合わないのであれば、それはOCPポジションが合っていないか、心理的に慣れる事が出来ていないから。」とクリスティは話します。
実際に使用してみると、当初若干の違和感をおぼえますが、慣れてしまえばラウンド・チェーンリングとフィーリングは変わらなくなります。
とはいえラウンド・チェーンリングにあきらかに不利な点があるわけではありませんし、オーバル・チェーンリングのメリットについてもまだまだ分かっていない事が多いのも事実です。

マリアンヌ・ヴォスが言うように「試してみてメリットを感じれば使う、感じなければ止めれば良い。」といった考え方で良いのではないかと私は思います。

ぜひ一度 オーバル・チェーンリングを導入してみることをお勧めします。

Peaks Coaching Group – Japan
中田 尚志

ピークスコーチンググループプラチナム認定コーチ。
山本幸平選手・西薗良太選手らのコーチングのかたわら、楕円ギヤの共同研究にも取り組む。
2013年全米自転車競技連盟パワートレーニングセミナーを修了。2015年にトレーニングピークスユニバーシティを受講し、最先端のパワートレーニングを学ぶ。現在までに15,000以上のパワーデータを解析。2016年から京都を拠点に、パワーベースのコーチングを日本で展開する。

www.peakscoachinggroup.jp