サドルリペアから学ぶサドルのあれこれ

リペア講習
前回のBROOKSファクトリーツアーの続きです。
今回はリペア講習を通じて学んだサドルのあれこれ。
そして体感したのはやっぱり職人さんはすごいということ。

ファクトリーツアーが終了したら、リペア講習が始まる。
積極的に前に出る他国の人を前に日本人(ということにして)の私は少し気後れして、前に出きらずオロオロしてしまう。その間に他の人はカンカンとハンマーを叩き始めている。

BROOKSサドルの構造について
BROOKSのサドルの基本構造について改めて。
ハンモック構造で前後で革のテンションにより適度なサスペンション効果が得られる。


修理できること、できないこと
これが伸び切ってしまったまま使うと、レールに対して曲げの力がかかってレールが折れたり、先端のテンションピンが折れる事につながる。
そうして破損したサドル。
トップのレザーは残念ながら使い切ったら終了。
ただし、フレーム側の破損は補修が可能。


職人技の体験
そんな想定で使い古されたサドルが供給される。
先に手をあげた積極的な人たちにリペアの練習用のサドルが回っていく。
出遅れた私に回ってきたのは、COLTの何かスペシャルそうなやつ。プレッシャーが大きいやつ。

これ何かスペシャルそうだけど大丈夫?と聞くと、不安を察してか代わりのB17 SPECIALを持ってきてくれた。


やったら分かる(想像してたけど)難しいやつ
いやいや、これ製品じゃないのと思いながら、それにハンマーを打つのが怖すぎる。
3人いるスペシャルサドル担当のスペシャリストのうち1人がレクチャーについてくれる。
先端を潰したリベットを表から叩くところからレッスン。
治具に収まっているのか収まっていないのか、分からない。
叩いていいのか分からない。
恐る恐る下から収まっているか覗き込むと、覗くなと叱られる。


とにかく体が覚えるまでやり続ける
Don’t think, feel と言ってはないと思うが、そのような事を言われる。
目で見るのでなく、手で感じろと。

LESSON1にしてはちょっとハードルが高いが、恐る恐るハンマーで叩いていく。
これが恐ろしく難しい。
真ん中を2回そして周囲を叩いて、出っ張りがないか手でチェック。
ここで気づいた。
このスペシャルサドルを加工する人たちのグローブは皆親指部分をカットして親指が出るようになっている。


これは、リベットの出っ張りをチェックするため切り取られているのだ。
なんて職人的なのだと感動していたら、私の仕上げがあまりにひどく、取り上げられて、きれいに仕上げられる。

職人の仕上げが右。私が打ったものは左。ムラがあるのと、段差がついている。

LESSON2は、すでに打たれれているリベットを取り除く作業。
工場ではドリルで外していくが、これがすでに難しい。

ハンマーで外す技もあるけど これもまた大変。
この簡単そうに見えて簡単じゃない職人技でBROOKSサドルはできている。

この作業が必要無いよう予防を!!
この技術がなぜ必要かというとサドルのリペアに必要なため。
・リベットが飛んでしまった。
・レールが折れてしまったのでフレームを替えたい。
・バネがバラバラになってしまった。
そんな時にこれらのリペアが生きてくる。
私以外にちゃんと習得した技術者がいるので、国内のリペアもご安心を。

一番の予防はテンションを適正に張っておくこと
これを予防するのは、サドルのテンションを適正に張っておくこと。これに尽きる。

ハンモック構造のBROOKSサドルは、革のテンションが緩んできてそのまま使用すると、フレームや、バネなどに負担がきてそれで破損につながる。
もしも、サドルトップが垂れてきているようであれば、水平に近いところに戻るようにテンションボルトを時計回りに締めて調整を。

スティーブン・グリーンに聞いたQ&A
と、ここで工場で得た革サドルうんちく色々をご紹介。
なかなか現場でしか聞けない、細かい質問をここぞとばかりにしていってみる。
サドルの裏を見ると書いてある刻印は何?

Q.サドルの中心にかいてある、2A3の文字は何ですか?


A.2023年1月製造。
 左右の数字が製造年。真ん中のアルファベットは生産月だよ。

A 1月
B 2月
C 3月
D 4月
E 5月
F 6月
G 7月
H 8月
I なし(1と見間違えるため)
J 9月
K 10月
L 11月
M 12月
になる。

Q.この横の4桁の数字は何?


A.これはそのサドルを製造した時の革のロット。
これで不良があったりすると、この番号からいつの革で不具合があったかをトレースできる。

Q.あったりなかったりするこの数字は?


A.タンナーから送られてきた革のサイズ(スクエアフィート)
これはあったりなかったりするので、この刻印があるのは珍しい。
ついているあなたはラッキー?

Q.スペシャルサドルを仕上げる職人は何人いるの?


A.3人だよ
以前は2人の頃もあったけど、今は3人体制に。
この写真に写っている3人が世界中の銅鋲のサドルを仕上げていると思うとすごい。

Q.革のスジのような模様は?
A.血管などの跡。本革の証で、革の個性
前回も触れたけど天然の本革だから出てくる柄。
模様が出てくるとよりスペシャル感が増すので、何か特徴があったらラッキー。
ごく稀にこういった柄が浮かび上がることも。
ぜひ、この個性を楽しんであなただけのサドルに仕上げてみましょう!

Q.SOFTENDレザー(最初から柔らかい)ってなに?工場で加工するの?


A.タンナーでオイルで特別なケアをして工場にやってくるんだよ。
最初から快適なサドルがいいという方は、このサドルを選ぶと◯。
オイルの入り方によって、薄い色から濃いいろまで独特のグラデーションが入るのが特徴。
この柄の違いも楽しみのひとつ。

いかがでしたでしょうか。
歴史がある分、その辺にゴロンと転がっているものがとんでもなく希少だったりする工場。
それを支える人々も素晴らしく、背景を知ると、より製品に温もりを感じます。
また、今後も工場の様子をお伝えしていきます。