姿勢の中心となる「DHバー」の構成要素
TTバイク特有の、身体を低くして前腕を預ける深い前傾姿勢。その中心となるのがDHバーです。
DHバーというと前に突き出したバー部分だけを思い浮かべがちですが、実際のポジション出しは以下の要素を総合的に組み合わせて行います。
- エクステンション:腕を伸ばし、手を置く部分
- パッド・パッド台座:肘や前腕をしっかりホールドし、体重を預ける部分
- 各種アジャスト機構:高さ、リーチ、角度などを調整するパーツ群
これらすべてのセッティングを掛け合わせることで、初めて自分だけの「速くて維持できる乗車姿勢」が完成します。
高さと角度。圧倒的な可動域
自分に合った姿勢を作るためには、機材側にそれを許容するだけの「広大な調整範囲」が求められます。小柄なライダーから大柄なライダーまで、最適な3D空間の中に腕の位置を収めるため、P5のDHバー周辺は以下のような非常に広い可動域を持っています。


- ライザーポスト(高さ):DHバー全体を支える台座部分で、最大150mmの高さ調整が可能。
- エクステンションバー(角度):0〜30度の範囲で、5度刻みの7段階に角度調整が可能。

ここで特に重要なのが「角度」を細かく変えられる点です。エクステンションの角度が少し変わるだけで、手首の負担が変わり、腕のラインが変わり、結果として肩や背中の力み具合まで大きく変わってきます。
負担を減らし、空力を高める新型エクステンション
新型エクステンションバーは、ポジションの自由度と空力・快適性を両立させるため、以下の実戦的な設計が採用されています。
- 最大200mmのリーチ調整:前後の突き出し量を広く確保し、腕の長さやフォームに合わせて無理なくアジャスト可能です。
- 100mmライズのエルゴノミック形状:先端の握り部分に100mmの立ち上がりを持たせることで、長時間でも手首の負担が少ない自然な角度を維持できます。
「最大200mmのリーチ調整」「100mmライズを持つ新型バーの優れた形状」そして「0〜30度の角度調整」。この3つの要素の組み合わせにより、ライダーの骨格や柔軟性に合わせて、一番力まずに空力を保てるスイートスポットをピンポイントで探り当てることができます。


バー自体の形状もより手首の負担が少ないエルゴノミックなデザインに変更されました。長時間のライドでも自然な手首の角度を維持できるだけでなく、バーと前腕の間にできる隙間を極力減らすように設計されています。これにより気流の乱れを抑え、空力性能の向上にも直接寄与しています。


空力と幅のパラドックスを解決する「トーイン調整」
現行P5のDHバー周辺で、最もマニアックかつ理にかなっているのが「幅」の設計です。
純粋な空力性能(エアロダイナミクス)を高めるため、アームカップの外側位置にあえて制限を設ける攻めたアプローチが取られています。
- バー取り付け位置:中心から72mm(従来よりワイドに配置)
- アームカップ外側位置:108mmから91mmへ絞り込み(ベースの空力性能を追求)
この基本構造により前面投影面積を極限まで削ぎ落とす一方で、単に狭くしただけでは大柄なライダーが窮屈になってしまいます。そこで重要になるのが、次に解説する「トーイン調整」による幅の最適化です。

しかし、単に狭くしただけでは大柄なライダーや肩幅の広いライダーが窮屈になってしまいます。
そこでP5が採用したのが、DHバーの取り付け方法変更に伴う「0〜7.5度の範囲で設定可能なトーイン(内向き)調整」です。このトーイン調整機能を活用することで、システム全体の幅(アームレストの間隔)をより広げることが可能になっています。 つまり、「ベースの空気抵抗は極限まで削ぎ落としつつ、0〜7.5度という角度調整のギミックを使ってライダーに合わせた広さも確保できる」という、非常にスマートな解決策を持っています。


パッド台座が意味するもの
高さ、長さ、角度、そして幅を決めた後、フィッティングの視点で最後に重要になるのが「肘(前腕)の位置」の固定です。現行P5のアームカップ(パッド台座)は、以下のアップデートによりサポート感が飛躍的に向上しています。
- 10mmピッチの微調整:調整ピッチが前作の15mmから10mmへと細分化され、より緻密なポジション出しが可能に。
- 深く丸みを帯びたカーブ形状:肘から前腕にかけて自然に沿い、面でしっかり支えるデザイン。
- 高めのサイドウォール設計:横ブレを防ぎ、長時間のレースでも前腕をズレなくホールド。
これらの進化により、作り上げたポジションを無理なく最後まで維持できるよう設計されています。


DHバーは、乗り手に合わせて初めて完成する
同じP5であっても、身長、腕の長さ、肩幅、柔軟性、そして目標とするレースによってベストなポジションは変わります。だからこそ、P5は「フレームサイズを選んで終わり」ではありません。
高さ、リーチ、エクステンションの角度、トーイン、そして前腕を支えるパッドの位置まで。
これらを組み合わせながら、自分の身体に合わせてポジションを作り込んでいきます。

P5のDHバーは、こうした細かな調整に対応できるよう、非常に広い可動域を備えています。
- 高さ(スタック):最大150mmのライザー調整
- 前後(リーチ):最大200mmの調整幅
- 手元(アングル・形状):0〜30度の角度調整と100mmライズの新型バー
- 幅(トーイン):0〜7.5度の内向き調整
- ホールド感:10mmピッチのパッド調整と、深く包み込むアームカップ
これらを組み合わせていくことで、単に「低い姿勢」ではなく、速さと維持しやすさを両立したポジションを作ることができます。
そして、トライアスロンではもう一つ重要な要素があります。
それが、水分や補給食をどう搭載するかということです。最後の記事では、その「ハイドレーション」と「UCIルール」との関係について見ていきます。
