そもそも論

ASSOSの歴史は30年以上前に遡ります。
まだサイクリングジャージがウールで作られていた時代、スキーのスキンスーツに使われていた「ライクラ」をサイクリングジャージに初めて採用したのがASSOSの始まりです。

「ライクラ」を採用したサイクリングウェアを開発したあと、新たな問題に直面します。トップスとボトムスで分かれているため、ペダリングの際にボトムスがずれ落ちてきてしまうのです。

ASSOSはここでも新たなソリューションを生み出します。「”ビブ”ショーツ」の誕生です。
ボトムスにビブサスペンダーを付けることで、ずれ落ちを防ぐ事に成功しました。


S5世代からS7世代へ

2005年から2013年くらいにかけて約8年間ほどのロングセラーを記録した「S5」世代は、従来のサイクリングウェアに無かった「身体へのフィット感(=ボディフィッティング)をコンセプトに、どれだけ身体にフィットするかを重要視した設計になりました。

ライディング姿勢を前提にしたウェアの設計


立った(直立)状態ではなく、ライディングポジション(自転車に乗っているとき)の姿勢は全く異なる点に着目し、よりライディングポジションで最適なフィット感が得られるようにウェアを設計することにしたのです。

当時のカタログのモデルもライディング姿勢
ASSOSのビブショーツの設計は人間の身体の動きや構造に基づいている


そうなると、ファブリックの設計が難しくなります。単純に、前面と後面の布を合わせて縫い合わせるだけでは腰の曲がり具合や大腿部の動きなどに合わせたライディングポジション時に最適なフィット感は得られなくなるからです。
そのため、S5世代では 14~16種類のパネル(布)を縫い合わせて、ライディングポジションに最適なフィット感が得られるサイクリングウェアを開発していました。


ASSOSのショーツの構造をひも解く

ライクラに使用するシリコンの糸を細くするASSOSの技術

ASSOSがS7世代のショーツを開発、販売を開始してから今年で10年以上が経過した今でも、この技術をサイクリングショーツのファブリックに採用しているメーカーはほぼありません。
ASSOSもこの繊維業界でも至難の技術とされてきた「強度を保ちながらも繊維を細くする」技術を開発するまでは網目の粗いファブリックを使用していました。

繊維が太いと編み目が粗く、指の色が透けてしまう
ASSOSは繊維を細くする事で編み目を細かく、指の色も透けていない


繊維の糸が太い素材は指の色が透けてしまっています。繊維の一本一本に強度を持たせることで伸縮性や生地自体の強度を確保する必要があるため、太い繊維を編む必要があり、繊維(糸)に太さがあるため必然的に編み目が荒くなってしまいます。

パネルも縫い目も減ったことで、ショーツ自体の軽量化も縫い目による肌へのストレスも低減することが可能になった


一方、ASSOSは細くて強度のあるライクラ繊維を採用することで、ファブリックの編み目の粗さを非常に細かくすることが可能に。
編み目を細くすることでファブリック自体の伸縮性も強度も高くすることができるようになりました。従って、多数のパネルを繋ぎ合わせることで身体のラインに沿うように設計していたビブショーツが、少ないパネル、縫い目で作れるようになったのです。


ライダーの臀部の動きを徹底的に研究したパッド

S7世代のビブショーツから現在に至るまで、ASSOSのビブショーツやタイツ、ニッカーに採用されているパッドは、「Goldengate(ゴールデンゲート)」と名付けられた技術を採用しています。
ゴールデンゲートは、パッドの一部をあえてビブショーツの生地に縫い付けず、浮いているような構造になっています。

これには、ASSOSがビブショーツのフィット感の重要性を認識し、トレーニングやロングライドで必ず出てくる「お尻部分のズレや摩擦、痛み」を低減するために研究や試作、テストを繰り返して考案されたものです。

パッドが肌と一体化し、パッドと肌の摩擦を無くす

ペダリングをしていれば、必ずお尻(臀部)は動く。これは避けることのできない人間の身体の動きです。では、臀部とパッドの摩擦を無くすためにはどうすれば良いか。
ASSOSは、パッドと肌が同じ動きをするようにして、パッドとショーツの生地で動きの猶予を作れば肌の摩擦を低減できるのではないかと考えました。

また、尾てい骨の位置を基準に、臀部の位置を安定して固定させるためにS7世代のビブショーツはビブサスペンダーなど背中側の生地が尾てい骨中心に集められるような構造になっていました。

臀部(お尻)の動きを手でイメージ
尾てい骨を基準にお尻の位置を固定することでパッドの安定性を高める

時代はS9へ

「ゴールデンゲートテクノロジー」でパッドの安定性を高め、この時点で他のショーツの履き心地とは全く異なる境地に達していましたが、ASSOSの快適で高いパフォーマンスをサポートするビブショーツ開発への探求心はとどまることはありません。

ライダーの身体によりフィットしたショーツを設計する為に使用する生地のパネル数も、S5世代で14~16パネルからなんとS9世代では最低で2パネルまでになりました。


広げれば1mくらいまでになる1枚の生地を膨大な時間をかけて折りたたんだり、縫い合わせたりすることで1つのショーツがやっと出来上がります。それが「バタフライパターン」です。

S7世代のショーツは背中の生地が尾てい骨の位置を中心に設計されていた
S9はパッドの形に沿うような設計にアップデート

「A-LOCK ENGINEERING」の誕生

S9世代のショーツでは、様々な機能が追加になりました。S7世代で実現した高いパッドの安定性と摩擦やズレの防止に加えて、よりペダリング時のライダーの身体の動きを考えてアップデートされていきます。

rollBar(ロールバー)

ペダリング時には、膝が伸縮することで自然に太ももの前部分や裏の生地が伸びたり、縮んだりします。左膝が曲がっているときは左側の背中やお尻にかけては生地が伸び、逆に右膝を伸ばしているときは右側の背中やお尻にかけての生地はタルみます。
ビブストラップが背中下部と臀部の二か所に縫い付けられていることで、伸ばされた側の臀部やパッド周辺の生地は縮もうとする動きをします。縫い付けられている2か所の間のビブストラップはあえて少したるみを持たせており、常に臀部とパッド、そして生地自体の動きが連動するようになっているのです。

ビブストラップは背中下部から臀部にかけて2か所で縫い付けられている
ペダリング時の腰や臀部の動きを想定した機能

特徴的なビブストラップと腹部のカット

ASSOSのビブストラップは、前部分と背中部分で異なる伸縮性の素材を使用しています。(正確には前側と背中側のビブストラップをつなぐ部分も併せて3種類)
先ほど説明した「rollBar(ロールバー)」にも関連しますが、ASSOSのビブショーツの安定した快適な着用感はパッドの安定感と密接に関係しており、ビブストラップもその安定感を大きく左右する一因なのです。

腹部の生地はへその下に来るようにカット。ライディングポジションは必然的に腹部が圧迫されるような姿勢になるため、腹部への過度なコンプレッションによる不快感を低減する為の設計です。

A字型のビブストラップは前側と背中側で伸縮性の異なる素材を使用
腹部の生地はへそのかなり下までしかない

ASSOSのビブショーツは考えられないほど多くの研究やテスト、そして数多くの世界中のトップアスリートからのフィードバックを受けて開発され、アップデートされてきました。

可能な限りライダーの身体やライディングポジションを考えぬいて設計されているからこそ、30年前からずっと、世界中にASSOSファンが多く存在しているのです。