日本縦断 3,000kmの旅 世界から見た日本のサイクリング

日本で暮らす私たちにとって、整った道路、清潔な宿泊環境、各地にあるコンビニ、山と海が近い地形は、どこか当たり前のものかもしれません。

しかし、世界のサイクリストから見ると、日本は少し違って映ります。
安全に走りやすく、景色の変化が大きく、補給もしやすい。さらに、都市と自然が近い距離で切り替わる国は多くありません。

ASSOSライダーのDeby Brunold(デビ・ブルノルド)は、北海道の最北端から九州・佐多岬まで、日本列島を北から南へ走りました。

その距離は約3,000km。

彼女の旅は、日本に住む私たちが見慣れている風景を、世界の視点からもう一度見つめ直す記録でもあります。


北から南へ、秋を追いかける旅

デビーの旅は、北海道の北端から始まりました。
日本海とオホーツク海に挟まれた、風の強い海沿いの道。そこから彼女は、九州南端の佐多岬を目指して走り出します。

「どのルートを走るかは、決めていませんでした。
ただ、いちばん北から始めて、秋を追いかけながら、どこまで走れるかを見てみたかったんです」

細かく計画されたルートではなく、北から南へ。
道が続く限り進み、季節の変化を身体で感じながら走る旅です。

北海道の冷たい空気から九州南端の暖かさまで、日本は南北で気候が大きく変わります。
約3,000kmを走ることで、地域ごとの気温、風、地形、道路環境の違いを実感できることも、日本縦断ならではの特徴です。

日本に住んでいる私たちにとっても、北海道から九州までを自転車でつなぐ機会は多くありません。
デビーの記録は、海外ライダーの視点を通じて、日本のサイクリング環境の幅広さを再認識させてくれます。


世界から見ると、日本は「別の世界」のように映る

デビーは、日本をこう表現しています。

「日本は、まるで別の世界に足を踏み入れるような場所でした」

海外から見た日本には、寺院、新幹線、読めないメニュー、独自の街、文化といった印象があります。
一方で、実際に自転車で走ると、その魅力は観光地だけではないことに気づきます。

都市部を離れると、道は静かになり、山あいの集落や森の中の峠、海沿いの小さな町が現れます。
日本の地方には、交通量が少なく、落ち着いて走れる道が多くあります。

また、路面の整い方や交通の落ち着き、標識の分かりやすさも、海外のライダーにとって大きな安心につながります。

日本にいると見過ごしてしまいがちな日常の道も、世界から見れば、長距離ライドを組み立てやすい環境です。
その走りやすさがあるからこそ、ライダーは景色やペース配分に集中しやすくなります。


山、森、海が近いことが、日本の走る魅力になる

日本のサイクリングが特別に感じられる理由のひとつは、景色の切り替わりの速さです。
山を越えれば海が見え、海沿いを走っていたはずが、少し進むとまた森の中へ入っていく。

デビーも、その変化を強く感じています。

「山では猿に出会い、海沿いでは魚が跳ねていました。本当に、すべてを体験したような感覚でした」

秋色に染まる森。霧がかかる峠。下りの先に現れる海岸線。
山道で見かける猿や、海沿いで跳ねる魚。

日本では、こうした景色がひとつの旅の中に詰め込まれています。
大陸のように同じ景色が長く続くのではなく、地形も空気も短い距離で切り替わります。

長距離を走るライダーにとって、この変化は大きな魅力です。
疲れてきたときでも、次の峠の向こうに何があるのか、次の海沿いでどんな景色に出会うのかを楽しみにしながら走り続けられます。

日本の地形は、距離だけではなく、変化の多さによってライドの印象を深めてくれます。


コンビニと清潔な宿泊環境が、旅の不安を減らす

世界のサイクリストから見て、日本がバイクパッキングに向いている理由は、景色だけではありません。
補給と休息のしやすさも、大きな魅力です。

デビーは、日本のコンビニについて印象的に語っています。

「どれだけ遠い場所にいても、走るための補給ができるセブンイレブンを見つけることができました」

日本に住んでいる私たちにとって、コンビニは日常の一部です。
しかし、長距離を走るサイクリストにとっては、次の区間へ進むためのライフラインになります。

おにぎり、温かいコーヒー、補給飲料、すぐに食べられる食事。
エネルギーが切れそうなタイミングで、身体を立て直す場所があることは、旅の安心感を大きく変えます。

さらに、宿泊施設で洗濯がしやすいこと、アメニティが用意されていること、清潔な環境で休めることも、日本ならではの強みです。
荷物を減らし、翌日も走れる状態を作りやすいことは、バイクパッキングでは非常に大きな意味を持ちます。

長距離ライドは、強く走るだけでは続きません。
補給し、洗濯し、休み、また走り出せる。その繰り返しを支えてくれる環境が、日本には自然に備わっています。


東京は、旅の途中に現れるもうひとつの日本

北海道から九州へ向かう旅の途中で、デビーは東京にも立ち寄りました。
静かな山道や海沿いとはまったく異なる、光、交通、人、建物が密集する巨大な都市です。

東京は、自然の中を走る旅とは対照的な場所です。
ネオン、自動販売機、整然と流れる車、正確に動く街のリズム。そこには、日本のもうひとつの顔があります。

今回、東京ではASSOS DYORA RSVレーシングコレクションの撮影も行われました。
速さと精密さを求めるウェアが、機能性と都市の緊張感を重ねるような撮影になりました。

日本のサイクリングの面白さは、自然だけではありません。
静かな峠、海沿いの集落、そして圧倒的な密度を持つ東京。これらがひとつの国の中にあり、ひとつの旅の中でつながっていきます。

この振れ幅の大きさが、日本を走る体験をより印象深いものにしています。


走り切った先に残った、日本への言葉

北海道から走り始めたデビーは、最終的に鹿児島県 佐多岬へ到着しました。
北の冷たい海から、南の暖かな空気へ。山を越え、森を抜け、海沿いを進み、いくつもの町をつなぎながら、日本列島を走り切りました。

「最後には、たどり着くことができました」

彼女は、まるでそれが自然なことだったかのように語ります。
けれど、約3,000kmをロードバイクで走ることは、決して簡単なことではありません。

それでも、その言葉には大げさな達成感よりも、また次の旅へ向かうような余韻があります。

そして、デビーは日本についてこう残しています。

「私にとって完璧な国に、必ずまた戻ってきます」

日本に住む私たちにとっては、いつもの道、いつものコンビニ、見慣れた山や海かもしれません。
しかし、世界のサイクリストから見れば、それらは安心して長く走り続けられる特別な環境です。

整った道。
山と海が近い地形。
補給のしやすさ。
清潔に休める宿泊環境。
そして、北から南へ走るほどに変わっていく季節と景色。

デビーの日本縦断は、海外ライダーが見た日本の記録であると同時に、私たちが知っているはずの日本を、もう一度サイクリングの視点で見直すきっかけになります。


ライダープロフィール

Deby Brunold(デビー・ブルーノルド)

スイス出身。元看護師(ケアワーカー)という異色の経歴を持つ、世界を股に掛けるサイクリングインフルエンサー。自転車への情熱からフルタイムのクリエイターへ転身し、「Not fast, just far(速くではなく、遠くへ)」の哲学のもと、過酷かつ美しい長距離バイクパッキング(自転車旅)の魅力を発信している。

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