不易流行
~ ASSOSのビブショーツを思う ~

文・ASSOS PRO SHOP TOKYO 代表 相原 亮介

「不易流行」

ASSOSのビブショーツを思う時、そんな言葉が頭に浮かぶ。

「いつまでも変化しない本質的なものを忘れない中にも、新しく変化を重ねているものをも取り入れていくこと。また、新味を求めて変化を重ねていく流行性こそが不易の本質であること。」
蕉風俳諧における理念の一つ。

三省堂 新明解四字熟語辞典

今やASSOSのビブショーツはサイクリングにおけるスタンダードとなっているが、スタンダードであり続ける裏には、絶え間く積み重ねられてきたイノベーションの数々がある。

1976年に、それまでのウールに代わる世界初のライクラ素材を使用したサイクリングショーツを発表して以来、ASSOSはサイクリングショーツのスタンダードを次々と塗り替えてきた。
スキーウェアに着想を得た”ビブ”サスペンダーの採用。セーム革からエラスティック素材のパッドへの変更。レッググリッパーの搭載。通気性に優れたワッフル構造のパッド。パッドの全周を縫い付けない大胆な発想。シームを極力減らしたパターンの追求。新機軸のサスペンダー構造。等々。全てはサイクリストの快適性のために。

 

 

 

40代半ばに差し掛かった今の自分にとって、買い物の際の基準は、それが「確かな物」かどうかだ。これまでにたくさんの買い物をしてきてわかったのは、自分の場合、物の数はそれほど必要ないし、奇抜で特別な物も必要ない。
重要なのは、使い心地や着心地がよく、なにより使っている時に気分が良い物。そんな物を使いたい。その結果、気がつくと身の回りには、いわゆる定番的な物ばかりが残った。 そこそこの値段はするが、品質が高く、機能的。シンプルで飽きが来ず長く使える。そしてプロダクトとして美しい。そこが共通点。

スイスのサイクリングウェアASSOSの製品、とりわけブランドの代名詞的なアイテムであるビブショーツは、まさにそのような物だ。サイクリングウェアのスタンダード。それがASSOSのビブショーツ。スイスという国のイメージをそのまま体現したような、緻密で美しく、高機能な製品になっている。

2007年からASSOSのビブショーツを使い始め、現在まで S2、S5、S7、S9と4世代の変遷を目撃してきた者として、ひとつ言えるのは、やはり「最新の物が最良の物である。」ということ。その時々で、サイクリストの快適さの為に出来ることを全て盛り込んでいるのだから、必然的にそうなる。

自動車のフルモデルチェンジのように、おおよそ5年程度のタームで次世代に進化していくASSOSのビブショーツは、長い開発と改良の期間を経て次の物が生まれるので、新旧世代間に、どうしても技術的な差が生じる。とりわけ、素材と構造の進化が著しい。
わかりやすく言うと、生地は新世代になるほどに薄く、身体を覆う面積が少なくなり、より立体的になっていく。一方で、生地と生地を繋ぐ縫い目はどんどん減っている。ヌードに近づいているのだ。

おすすめは、中級グレード

ASSOSのビブショーツには価格帯の異なるグレードが存在し、どれを選べばいいか迷ってしまうが、まずはその時々の中堅グレードをお勧めしたい。中堅グレードは製品の核となる技術はきちんと盛り込まれつつも、普及の役割も担っている為、コストアップに繋がるギミックは排除されている。それがちょうどいい。

実際に着用してみた印象は、きつくもなく、緩くもなく。まるで第二の肌のように、身体に対してぴったりと生地が寄り添う。素材は機能性に優れ、汗を素早く処理することで、気温が高くなっても低くなっても、高強度で走ってものんびり走っても、暑いだとか寒いだとか、感じ方に差が生まれず一定である。
いろんな意味で「存在感が無い」ことがASSOSのビブショーツの特徴だと思う。主役はあくまでもライダー。ライダーの最大のパフォーマンスをどう引き出すかが、サイクルウェアにとって最も重要なことだとASSOSは考えている。

ASSOSを販売して10年

縁あってASSOSの専門店を始めて、まもなく10年が経とうとする。これまでに、いったいどのくらいの数のビブショーツを販売したかわからないが、色々あるASSOSのアイテムの中でも、お客様の満足度が特に高いものがビブショーツだ。購入いただいた方のほとんどが、その使い心地を褒めてくださり、またリピートしてくださる。売る立場として、このようなアイテムがあることはとても幸せだ。使えば、その良さをすぐに感じていただける。

よく「製品の裏側を見るとつくりの丁寧さがわかる」と言うが、まさにその通り。お店では、店頭での販売の際も通販での販売の際も、必ず製品を広げ、表も裏も確認し、汚れや破損、縫製不良、糸の始末が悪い箇所が無いかをチェックしている。しかし、ASSOSのビブショーツは、ほとんど手を入れる余地が無いほど、工場出荷時の状態が美しい。とても高い品質管理がなされている。この点は他社の追随を許さないだろう。

一方でASSOSは、プロモーションやコマーシャルは、あまり上手ではないかもしれない。最近は、そういうことが得意なブランドが増えてきて、マーケットを賑わしている。サイクリングウェア市場の拡大とともに、国内外問わず、新規参入のブランドが増えて、見た目にお洒落なものがどんどん生み出されている。 そんな中、「ASSOSは相変わらずだなぁ」といった印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれない。でも僕は、ASSOSのそんな不器用な感じが、嫌いではない。あくまでも製品ありきのスタンス。

受け手がどこに価値を置くかで、選ぶものが変わるのだから、世の中にいろんなブランドがあっていいと思っている。
ブレずに自分達が信じることを貫けばいいのだ。 僕が自転車に乗るのは、休日にリラックスしたい時が主だから、過剰に着飾って自転車に乗る必要はなく、着ていて気持ちがよく、機能性に優れ、シンプルで美しい物を使いたい。そんな思いに、ASSOSの製品はぴったりくる。

永遠のスタンダード。僕は自転車に乗り続ける限り、ASSOSのビブショーツを履き続けるだろう。

 

相原 亮介

東京 東日本橋にてASSOS専門店「ASSOS PRO SHOP TOKYO」を主催。
販売だけでなく、ライドイベントなども多数開催。

TEL 03-6821-4500
ASSOS PRO SHOP TOKYO HP