お気に入りのサイクルウエアを長く快適に着続けたいというのは、サイクリスト共通の思いだ。
そのためには洗濯をはじめとする日頃の正しいケアの仕方を知ることだ。
洗濯のプロとウエアメーカー、アソスに話しを伺った。

text/吉本 司 photo/茂田羽生 取材協力/株式会社フジドライ

優れた吸湿速乾性ゆえ 汚れをためやすい!?

タンパク質汚れが ウエアを攻撃する

「ポリエステルやポリウレタンなどの化学繊維でできているサイクルウエアは、基本的に耐久性は高いため、洗濯は難しいものではありません。ただ、ウエアの作りを見ると皮脂汚れなどをためやすい面もあるので、洗濯は確実にしたいですね」と語るのは、洗濯のプロ、フジドライの岡崎善胤さんだ。

その汚れでやはり厄介なのは、一般衣類と同じで汗と皮脂のタンパク成分による"タンパク質汚れ"と呼ばれるもの。これが繊維に付着すると細菌が繁殖してウエアに問題を引き起こす。

1つは"洗濯臭"と呼ばれるもの。洗濯して見た目はきれいなのに嫌な臭いがするというヤツだ。日常生活ではバスタオルなどで経験した人も多いだろう。  そしてもう1つは"加水分解"。アソスによるとポリウレタンのような伸縮性素材では、細菌が生地を犯して引き越す(過度な伸縮、激しい洗浄・乾燥も要因)という。ショーツなどの表面が白くなり、それを手で触るとポロポロと剥がれ落ち、伸縮性も低下してしまい本来の機能を失ってしまうのだ(アソスの近年の製品S7からS9では加水分解はほぼ起きていない)。

これらの問題は少しのタンパク質汚れなら起きないのだが、使い続けたウエアではそれが蓄積して発生しやすい。これは塩分などが通常の洗濯ではほぼ落ちるのに対して、タンパク質汚れは繊維と繊維の間に残りやすいからだ。さらにタンパク質はそれ自体が水分を含んでいれば液体の力で落としやすいが、乾燥や熱が加わると鎖状の分子構造を作り過強して落ちにくくなる。こうしてタンパク質汚れは、洗浄・乾燥を繰り返すうちに繊維に固着・蓄積するのだ。

岡崎さんによると、この現象に加えてサイクルウエアの繊維構造も、汚れの蓄積に影響を与えると分析する。それは化繊衣類の中でも最高レベルに細い繊維で撚られた糸を使っているためだ。極細な繊維は、糸の表面積を増やしてサイクルウエアの特徴である高い吸湿速乾性を生むには最適だが、反面タンパク質汚れが付着する面積は広くなり、繊維が重なりあう部分は汚れも抜けにくい可能性があるという。こうしたことからサイクルウエアの洗濯は、的確に行う必要があるのだ。


リセット洗濯で ウエアがよみがえる

「洗濯臭がしたらタンパク分解酵素(プロテアーゼ)を使った"リセット洗濯"をしましょう」と、岡崎さんはその解消法をアドバイスする。

タンパク分解酵素という成分は、一般的な衣類洗濯用洗剤にも含まれているのだが、酵素自体の値段が高いため少量しか配合できず、頑固なタンパク質汚れは落とせないというのだ。  この酵素はクリーニング業界で使われるものでスーパーなどでは手に入らない。数こそ多くないものの一般向けにも販売もされるので、インターネットなどで検索してみると良いだろう。

タンパク分解酵素の使い方は簡単だ。普段使いの洗剤に少し添加して、いつものように洗濯する。これで汚れはほぼ完璧に落ちるという。そして、このリセット洗濯の頻度は、洗濯臭がした時はもちろんだが、それなしでも半年に一度をめどにしたい。つまり衣替えの前に行えば良いのだ。ちなみにアソスでも衣替えの前にウエアの洗濯しっかりを行い、確実にきれいにした状態での保管を奨励している。冒頭で述べた加水分解のトラブルは、タンパク質汚れが落ち切らない状態での収納時に起こるケースが多いのだ。

話しは洗濯から少々逸れるが、オフシーズンの保管の仕方によってもウエアの耐久性が変わるとアソスは説明する。繊維を傷めるのでウエアは重ねて収納しない、ショルダーストラップの伸びを防ぐためにビブショーツはハンガーにかけない、湿気で繊維が傷むのを防止するためにプラスチック製の袋には入れない、以上がNGだ。

アソスが販売する洗剤「アクティブウエアクレンザー」。アンチバクテリアの効果と柔軟剤成分が高い


日々の洗濯が大切

こうしたリセット洗濯があるとはいえ、日頃の洗濯からタンパク汚れは残さないようにしたい。それにはまず細菌の繁殖を抑えるために、脱衣後はできるだけ早く洗濯することだ。

また、ウエアを着たままでシャワーを浴びて予洗いするのも合理的だとアソスではアドバイスする。この場合、すぐに洗濯作業に移らないと、ウエアに残るタンパク質汚れが落ちにくくなるので気を付けたい。

使う洗剤や洗浄法は衣類に記された洗濯指示に従うことだが、耐久性の高いサイクルウエアは、洗浄力の強い弱アルカリタイプを用いて問題ないと岡崎さんは言う。また、アソスでは専用洗剤もラインナップしており、細菌の除去効果も高く柔軟成分も配合されているので、こうした専用洗剤の使用も良いだろう。  さらに洗浄力を上げたいのなら洗濯表示上限の水温(30℃〜40℃が多い)で行うと効果的だ。水はその温度が上がると分子が活性化するので、これが洗浄力を後押ししてくれるのだ。  洗濯をする際にはウエアへのダメージを避けるため、他の衣類と一緒にしないでほしいとアソスは言う。難しい場合は、色移りの可能性があるので、色付きのコットン製衣類と一緒に洗うのは避けてほしいとのことだ。

洗濯ネットについては、使わない方が洗浄力は高くなる。ベルクロストラップなどウエアを傷付ける恐れのある衣類と一緒に洗う場合は洗濯ネットに入れるべきだが、それがなければそのまま洗う方がいいという。ちなみにアソスはネット洗いを推奨するが、上記のように傷付ける他の衣類が無ければそのまま洗っても問題ないそうだ。

さて、最近は全自動洗濯機が主流となっているが、これについても基本的には洗濯機の指示に従って洗濯すれば問題ないと岡崎さんは言う。

ただし急ぎ洗いのモードには気を付けたい。この場合すすぎ回数が省略されるので汚れや洗剤が衣類に残りやすく、洗濯臭や衣類を傷める原因になるという。また、こうした衣類が肌に触れるとかぶれなどを引き起こすこともあるので注意したい。 「ちゃんとすすぐまでが洗濯です。すすぎの回数は絶対に省略しないでください」と、岡野さんはその大切さを力説する。

洗濯の最終行程である乾燥については、乾燥機の高温が生地を傷める理由からアソスではその使用を認めていない。風通しの良い直射日光の当たらない場所での乾燥を奨励している。これも洗濯表示に従うのだが「そもそもサイクルウエアは速乾衣類なのですぐ乾きます。乾燥機を使う必要性はあまりないですね」と岡崎さんも同意見だ。

ひと手間かけるだけで、長く快適に着続けられる

洗濯機に入れる前に行うつけ置き・もみ洗いは、泥汚れだけでなく頑固なタンパク質汚れ、その他の汚れをとるにも有効だ


予洗いと専用洗剤で泥と油汚れを落とす

タンパク質汚れが"見えない汚れ"なら、"見える汚れ"は泥や油汚れだ。濡れた路面やダートを走るとウエアに強固に付着し、洗濯してもうっすらと汚れが残った状態に困っているサイクリストも多いだろう。

こうした汚れは、タンパク汚れと同じくできるだけ早く洗濯すること。そして洗濯機に入れる前にひと手間かけることで圧倒的に汚れ落ちが変わるという。  まずは洗い流す、たたく・揉むなどして、ウエアに泥や砂をできるだけ残さない状態にする。次にバケツにお湯を張り、洗剤を入れて5〜10分程浸した後、汚れ部分をもみ洗いするのだ。

激しい汚れにはブラシなどで生地面(メッシュなどブラシが引っかかるもの、毛羽立ちやすい生地はNG)を軽く擦り、繊維の中にある汚れを機械的に掻き出す作業を加えると効果的だ。 この作業を経て洗濯機にかければ、普段使いの洗濯洗剤でもかなりのレベルで汚れは落ちるというが、確実に汚れを落としたいのなら、漂白剤やタンパク分解酵素などが含まれた泥汚れ落としに特化した洗剤を使うのがお勧めだという。

泥汚れと並び落ちにくい油汚れは、汚れた部分にエタノールを吹きつけ、後にすぐ台所用中性洗剤でもみ洗いしてから洗濯機にかければOKだ。


サイクルウェア洗濯のワンポイントアドバイス!

1 : 泥汚れの落とし方

洗濯のプロは汚れを機械的に掻き出すのに、竹を細かく割いてブラシ状にした"ささら"という器具を用いる。写真のような洗濯ブラシ(シロクマに付属するもの)で代替えは利くが、その作業は繊維を傷めないためにも必ず衣類に対して垂直に当てそのまま動かす。泥汚れが残るソックスを実際に洗ってみたが、この通りにきれいになった


2 : 油汚れの落とし方

雨の日の靴下などにはチェーンが巻き上げる油汚れも付着する。こうした汚れは、通常の洗剤と洗濯では落ちにくいので、エタノールと中性洗剤を吹きつけ、それをもみ洗いしてきれいになったら水で流す。油性ボールペンのインクを衣類に付けて上記の方法で洗ってみたが、一度の作業で汚れはほぼ消えた。一度で落ちない場合は繰り返す。

サイクルウェアの洗濯は難しくない

こうしてサイクルウエアの洗濯について紹介してきたが、読んで頂いた通り難しい作業はない。

普段の洗濯に少しのひと手間を与えることで厄介な汚れをきれいにできるのだから、これからは走り終えたら自分の体や愛車だけでなく、サイクルウエアもしっかりきれいにしてあげたい。はじめの一歩は脱いだウエアはすぐ洗濯をすることだ。


岡崎 善胤さん

1907年に創業した老舗クリーニング会社「フジドライ」の代表取締役。同社は栃木県宇都宮市を拠点とし、県内に多数のクリーニング店を展開。シミ抜きをはじめ特殊クリーニングの分野でも高い技術を持ち、衣類の総合的なケアサービスを提供するほか、長年の洗濯技術の蓄積を元にした独自の洗剤シリーズも発売している。自身もサイクリストであり地元プロチームの宇都宮ブリッェンとも交流がある。

https://fujidry.co.jp


泥汚れ専用洗濯洗剤 シロクマ

フジドライでは洗濯のプロのノウハウを詰め込んだ洗剤を販売している。右はタンパク分解酵素の「FOA」。血液や食べこぼしなどのシミ抜きにも効果を発揮する。税抜価格/2000円 左は頑固な泥汚れを落とすことに特化した洗剤「シロクマ」。粉末洗剤で汚れ落とし用のブラシ(写真下)も付く。

税抜価格/2800円

問 http://cleaning-laboratory.com